屋根の軽量化をおこなうメリットと注意点
2023/12/05
近年では、耐震補強の一環として、屋根の軽量化をおこなう場合があります。
主に、日本瓦などの重さがある屋根材を、金属瓦などの軽量な屋根材に交換することで耐震性を高めますが、軽量化にはどのようなメリットがあるのでしょうか。
この記事では、屋根の軽量化をおこなうメリットと注意点について解説します。
屋根が重い場合の建物への影響について
屋根の軽量化は、主に耐震性の強化のためにおこなわれます。
ただ、なぜ屋根の軽量化が建物の耐震性の向上につながるのでしょうか。
通常、建物自体の重さは柱や基礎部分によって支えられています。
この部分は、日頃から建物の重さを支えているだけでなく、地震や台風などで建物に負荷がかかった場合でも、柱や基礎が支える仕組みとなっているため、建物が重いとそれだけ建物が壊れやすくなります。
また、建物が揺れることで遠心力が働くため、屋根が重ければ屋根の遠心力も大きくなり、揺れが増大しやすくなるのです。
そのため、屋根を軽量化することで、柱や基礎部分にかかる負担を軽減し、建物が揺れた際の反動も少なくすることができます。
屋根は軽い方がいい?
屋根の重さと耐震性の関係についてはいくつかの意見があり、中には因果関係はないという主張も存在します。
ただ、このような意見は屋根瓦が重いというイメージを払拭したい瓦メーカーなどが発信していることが多くなっています。
実際は、屋根の重さによって家の耐震性が変わることは、学術的に明らかにされています。
屋根の軽量化は代表的な耐震改修
屋根を軽量化することで、建物の耐震性が向上します。
そのため、屋根を葺き替えることで軽量化することは、耐震改修の代表的な方法となっています。
近年では震災などが増えていることもあり、屋根の軽量化工事をおこなうケースも増えてきています。
以前は屋根は重い方が良いとされていた
以前は、震災よりも台風による被害を抑えることを優先していたため、屋根は重ければ重いほどよいと考えられていました。
そのため、台風で屋根瓦がふさんすることを防ぐため、重い屋根瓦がよく使われていました。
ただ、現在では考え方が変化し、屋根は重くするのではなく、軽くすることが重視されています。
特に、大規模な震災が相次いだことから、軽い屋根瓦が多く採用されるようになり、軽量防災瓦といった軽い陶器瓦屋根も普及しています。
また、リフォーム市場では、ガルバリウム鋼板などの軽量で耐久性の高い屋根材の使用も急速に拡大しています。
地震による倒壊などの影響を避けるために、屋根の軽量化は公的機関の認定・試験などで評価されています。
屋根を軽量化するメリット
屋根を軽量化することで、柱や基礎部分にかかる負担を軽減できますが、それ以外のメリットも存在します。
ここでは、屋根を軽量化するメリットについて解説します。
耐震性能が上がる
屋根を軽量化する大きなメリットは、耐震性が向上するという点です。
建物が重いほど耐震性が低くなってしまうため、重さの原因となることが多い屋根を軽量化できれば、耐震性の向上が期待できます。
また、耐震性の向上には、建物の重心を下げることが重要です。
屋根は建物の中でも高い位置にあるため、屋根を軽いものに変更することで建物全体の重心を低くできます。
屋根材の落下による被害を防げる
屋根を軽量化すれば、屋根材の落下による被害を防ぐことができます。
屋根材が軽くても落下の被害を100%防ぐことは困難ですが、軽い屋根の方が落下のリスクは軽減できます。
地震などが発生した際に、重い屋根材が落下した場合、下にいた人に当たると大怪我につながりかねません。
このような被害を防ぐためにも、屋根を軽量化しておくメリットがあります。
屋根の重さの主な原因は屋根瓦です。瓦は落下すると割れてしまい飛散することがあります。
大地震の際に、落下して割れた瓦が飛散することで足場が荒れてしまう可能性もあるでしょう。
結果として、逃げ道がふさがってしまうこともあるため、軽くて割れにくい金属屋根に変更することは、地震対策にも役立つはずです。
建物の構造体の負荷が軽減できる
屋根は、梁や柱などのさまざまな構造体によって支えられています。
建物の構造体には、地震や台風の影響から住宅を守る役割もあるため、屋根を軽量化することで負荷を軽減すると、住宅の耐久性が高くなります。
建物の倒壊までの時間が稼げる
現在の耐震基準は、震度7でも倒壊しないことが条件となっています。
ただ、耐震基準が守られている建物でも、想定を超えた揺れが発生し、倒壊する可能性がないとは言い切れません。
屋根を軽量化することで耐震対策をしておくことで、建物が倒壊するまでに多少の時間を稼げます。
工期が短い
建物をリフォームする場合、重い屋根材を使っていると、工期が長くなってしまいます。
一方で、屋根材が軽い場合は、工事がスムーズに進められることなどから、工期を短くすることができます。
工期が短くなると、その分コストも抑えられるため、メリットがあると言えるでしょう。
屋根を改修する場合の費用について
耐震性の向上などの目的で屋根をリフォームする場合、工事内容と費用が気になります。
一般的な日本瓦やセメント瓦の葺き替えをおこない、軽量で強度が高いガルバリウム鋼板製の屋根材などに交換する場合の費用は、約100万円が目安です。
また、耐震診断も同時におこない場合は、一般診断法を用いた場合で約10万円が目安となっています。
最近では、日本瓦タイプの屋根材に、軽量化と瓦自体が他の瓦と強固に組み合わさる構造を追加することで安全性を高める「防災瓦」という製品があります。
この瓦を採用すると、建物の見た目を変えずに軽量化することが可能です。
他にも、棟瓦の中に金属製の固定具を入れることでズレや落下を防ぐ工法や、瓦を強固に固定する下地材なども開発されているため、瓦屋根を使い続けたい場合はリフォーム会社に相談してみてください。
それぞれの費用は、防災瓦への葺き替えは約130万円から、瓦の葺き直しは、約70万円が目安です。
屋根の軽量化の際の注意点について
屋根の軽量化は耐震性の向上のための手段の一つですが、屋根を軽量化しただけでは十分な効果は得られません。
屋根の軽量化の効果を出すためには、建物の基礎部分に十分な強度が必要です。
そのため、屋根の軽量化によって耐震性を高める場合は、地盤や基礎、柱などの部分についても耐震診断を行い、強度が不足している場合は、部分修復をおこないましょう。
この耐震診断や耐震補強工事については、1981年5月の耐震基準が新しいものになる前に建築された木造住宅であれば、自治体から補助金を受けることができます。
また、自治体によっては、耐震診断費用が全額、工事費用は半額まで補助される場合もあります。
耐震工事を検討している方は、まず居住地の役所まで問い合わせてみてください。
他にも、垂木と軒桁に金物が取りついているかどうかも確認しましょう。
これは、屋根が軽量化したことで、台風などで屋根ごと吹き飛ばされるリスクがあるためです。
最近の住宅では、垂木は金物で固定されているため、台風で屋根が飛散することはないでしょう。
ただし、古い住宅の場合、垂木は釘を使って留めていることが多く、屋根材の重さで飛散を抑えていました。
この状態で屋根だけ軽量化してしまうと、台風などで屋根全体が吹き飛ぶリスクがあるため注意しましょう。
屋根軽量化と補助金
1981年5月に耐震基準が改定されましたが、それ以前の建物の場合、耐震工事をおこなうと自治体から補助金が支給されます。
補助金の対象となる耐震改修工事にはさまざまな種類がありますが、主な耐震改修工事は以下の4つです。
- ・建物の基礎
- ・接合部の補強
- ・壁の補強
- ・屋根の軽量化
この記事で解説している屋根の軽量化についても、補助金の対象工事として認められています。
補助金を受給する際の注意点について
耐震工事をおこなうと補助金が支給されるケースがありますが、手続きの方法や支払い金額、条件などは自治体によって異なります。
一例を挙げると、地元の建設業者に依頼すること、という条件を設定している自治体があります。
ただし、地元の建設業者に依頼すると工事費が高くなる場合もあるため注意が必要です。
これは、自社では直接工事をおこなわず、下請けの屋根専門工事業者に発注するためです。
市内の工務店に依頼したにもかかわらず、結果的に市外の屋根工事業者が工事をおこなうケースもあります。
他にも、補助金の申請に「耐震診断」や「耐震設計等」をおこなう必要があります。
そのため、補助金をもらわずに自由に工事業者を選び工事をおこなった方が、結果的に費用が安くなることも少なくありません。
補助金を申請する際には、トータルの費用についても検討するようにしましょう。
屋根を葺き替える場合の工事業者について
屋根を葺き替える工事をおこなう場合、専門業者に依頼しますが、屋根材の種類によっては、依頼する業者が異なるケースがあります。
もし屋根材を軽い金属屋根に葺き替える場合は、依頼する業者は金属屋根工事業者になります。これは、板金工事が必要になるためです。
ただ、屋根の工事だからという理由で屋根材の種類に関わらず、瓦屋根業者に依頼するケースがあります。
実際には、瓦屋根業者と板金工事業者は全くの異業種です。
異業種の業者に依頼してしまうと、実際の工事は別の専門業者がおこなうため、中間マージンが発生するだけでなく、適切な工事方法による診断や提案を得られないリスクがあります。
まとめ
ここまで、屋根の軽量化をおこなうメリットと注意点について解説しました。
屋根の軽量化は主に耐震性の向上を目的におこなわれますが、屋根瓦が落下することによる被害を軽減させるというメリットもあります。
ただ、屋根の軽量化だけでは十分な耐震性は得られないため、柱や基礎部分の強度も確保することが必要です。
また、耐震基準が改定される前の建物であれば、補助金が支給されるケースがあるため、居住地の役所まで相談してみるといいでしょう。